第二章 末広がり

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 全休は立ち止まり、えっ、という顔をしてこちらを見た。後もう一押しと、自ら教えるような間抜けな顔。  まったく分かりやすいお人だ。 「喜多川は島田宿の者が身請けしたそうだ。だからよ、島田まで一緒に来てくれ」  全休は、んー、と唸りながら目をつむった。やがてぱっと見開くと、 「分かったが、分からぬ」  と言った。 「何が」 「おぬしは島田宿を目指し、江戸より参ったのであろう。島田は駿河国、ここは遠江国。行き過ぎておるではないか。何ゆえ遠回りをいたす」 「えっ、そうなの」  ここへ着く前、大井川の川縁で、身投げをしようとしてなぜか渡り切ってしまい、死に切れ無かった事を思い出した。何だ、身投げする事も、渡る事も無かったんだ。 「まあ良い。島田まで付き合うゆえ、吉原の方も頼んだぞ」  茶屋を出ると、島田宿へ向かった。田沼海道を進み、榛原郡(はいばらのこおり)高島村から舟で大井川を渡り、対岸の榛原郡西島村へ揚がる。ちなみにここは駿河国志太郡(しだのこおり)側だが、大井川の流れが変わった名残で遠江国榛原郡のままである。    二人はそのまま田沼海道は行かずに大井川沿いを川上へ向かう。 「越すに越されぬとは良く言ったものだ。大きな川だ」     
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