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全休は立ち止まり、えっ、という顔をしてこちらを見た。後もう一押しと、自ら教えるような間抜けな顔。
まったく分かりやすいお人だ。
「喜多川は島田宿の者が身請けしたそうだ。だからよ、島田まで一緒に来てくれ」
全休は、んー、と唸りながら目をつむった。やがてぱっと見開くと、
「分かったが、分からぬ」
と言った。
「何が」
「おぬしは島田宿を目指し、江戸より参ったのであろう。島田は駿河国、ここは遠江国。行き過ぎておるではないか。何ゆえ遠回りをいたす」
「えっ、そうなの」
ここへ着く前、大井川の川縁で、身投げをしようとしてなぜか渡り切ってしまい、死に切れ無かった事を思い出した。何だ、身投げする事も、渡る事も無かったんだ。
「まあ良い。島田まで付き合うゆえ、吉原の方も頼んだぞ」
茶屋を出ると、島田宿へ向かった。田沼海道を進み、榛原郡高島村から舟で大井川を渡り、対岸の榛原郡西島村へ揚がる。ちなみにここは駿河国志太郡側だが、大井川の流れが変わった名残で遠江国榛原郡のままである。
二人はそのまま田沼海道は行かずに大井川沿いを川上へ向かう。
「越すに越されぬとは良く言ったものだ。大きな川だ」
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