第二章 末広がり

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「置け。次郎冠者(召使い二号)め」 「なあ、その中田様ってのは、掛川に居るんだろう。そんじゃあ、行こうぜ、掛川に」  瑞円がそう言って全休の顔を見ると、困った顔をしている。 「どうなすった?」 「掛川には、行かぬ」 「何でさ」 「おやぎに出くわす」 「昼間に巻いたじゃねえか」  全休は再び黙った。辺りはだんだん薄暗くなり、うつむく全休の顔に影が差す。その影が顔の皺を深く見せ、ジジイをよりジジイにさせる。  西の空は赤い。 「なあ、もう日暮れだ。どこか木賃宿にでも泊まって考えようぜ」  それが良いと決まり、表通りへ出て作右衛門の店で米を一升買うと、再び裏通りへ入り、宿を探した。
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