第一章 道成寺

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「これ、若いの。早まるな」  大声で叫ぶ。だが、にわかに立ったので、頭の中を置き忘れたような感じになり立ちくらみがした。そしてそのまま前のめりにすっ転んでしまった。  寄る年波には勝てないのか。しかも砂の上なのに結構痛いぞ。  顔を上げると、身投げをしようとしていた若い僧侶は、歩みを止めてこちらを向いていた。  その顔は、待ってました、と言わぬばかりに大きく目と口を開き、頬に笑みを浮かべている。まるで親の帰りを出迎える子供のようだった。  その嬉しそうな顔が、これから身の上話を聞かせられると喜んでいるように思え、何だか腹が立った。  全休は立ち上がると砂を払い、踵を返して元居た松の根元に向かった。  後ろから水をはね上げる音がして、それがすぐに砂を踏む音に変わる。 「おおい、待ってくれ。御坊は止めに入ったのだろ。何ゆえ引き返す」  思ったとおりだった。決まっておろう、面倒だからだ、と思ったが、口に出すのも面倒。黙ったまま松の木に戻ると、打ち捨てた笠や杖、風呂敷包を拾う。  若い僧侶は追い付いてひざまずき、その腕にすがり付いた。 「お待ちなされ。訳を聞いて下され」 「おおかた身の上話だろ。だいたいな、聞く前に訳を聞けなどと言う奴があるものか」 「お止に入ったのなら、きっと訳をお知りになりたいでしょう。手前は江戸の生まれ……」 「待て待て、何も尋ねてはおらぬ」 「いいえ、お聞きになりたいのです」  そんなは訳無かろう、とは思うものの、しつこいので観念した。まあ、暇だし良いか。 「いたし方無い。話されよ」  全休はそう言うと荷物を置いて砂の上に胡坐をかいた。そして改めて若い法師の顔をよく見た。  色白だが細い目に低い鼻、美男子にはほど遠い。先ほど後ろ姿を見て甘酸っぱい気持ちになった自分を呪った。
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