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あっけにとられた瑞円の顔が、半笑いの、馬鹿を見下す顔付きに変わった。そのとたん、うな垂れた格好が、背筋がピンと伸びた姿に変わった。
「まったく、おめでたいお人だ。そんなものあるものか」
さっきまで下手に出ていた瑞円だったが、にわかに態度が大きくなった。
「おい、馬鹿にしておるな」
「いいや、馬鹿にはしてねえ。呆れただけさ」
そう言うと瑞円は端座から胡座に座り直した。
絶対、馬鹿にしている。
「よく聞くであろう。南海の先にあると」
「親爺さん、物語の聞き過ぎだ。よくよく考えてもみな。女だけでどうやって田畑を作る、魚を獲る。家を建てるにゃあ、木が要るが、女だけでどう伐り出す」
御坊から親爺さんに変わり、馬鹿にしていることが明白となった。
しかもそこまで言われて夢が壊れた。楽園は無いのか。
全休は座り込んだ。肩を落して黙る。もう誰とも話したくない。
瑞円が全休の肩を叩いた。
「元気出しな。女護ヶ島は無くとも、似た所ならある。吉原よ。そんでな、話の続きだが……」
夢を壊された上に詰まらない話。全休は立ち上がった。
「親爺さん、どこへ行く」
「どこって、もう行く当ては無い。ところで身投げはどうした」
「意地の悪い事を言う。親爺さんに出会って、気が変わった」
「それは悪い事をしたな」
「またまた意地が悪い。そんでよ、話の続きだが、喜多川の身請け先を尋ねて、せめて一目でも会いたくて旅を続けてたんだが、路銀も無くなり、しかも去年の不作で今年は米穀払底だ。誰も施しなどしねえ。どこへ行ったって追っ払われる。だからさ、物乞いも辛くなってよ。いっそ死んだら楽だろうと思い詰めたって訳さ。だけど二人なら心強い。なあ、親爺さんも一緒に来てくんねえか」
「何でまた。わしは喜多川なんぞには惚れてはおらぬ」
「見たら驚くぜ。凄い美人だ。女護ヶ島を目指すぐらいだ。よっぽどの女好きと見える。美人には目が無いはずだ。なあ、付いて来てくれ」
馴れ馴れしいのが鼻に付く。
「わしはここ遠州を離れ、なるべく遠国へ行かねばならぬ」
全休はそう言うと荷物を取って立ち上がった。
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