第一章 道成寺

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 にわかにゴロゴロと雷鳴が響いた。いつの間にか日差しは消えて辺りは薄暗い。空には覆いかぶさるように濃い灰色の雲が広がっている。 「こりゃあ、にわか雨だ。いや、あの恐ろしい雲の色。嵐かもしれねえ。どうだ、雨が降る前に雨宿りの出来そうな所へ参ろう」  瑞円はそう言って全休の袖を引いた。 「何ゆえ一緒に参らねばならぬのだ。わしは勝手に行く。おぬしも勝手にいたせ」 「いいじゃねえか。なあ、一緒に参ろう」  すると今度は松林の方から、ドドドドド、と地鳴りがした。揺れはしない。 「どうなってんだ、こりゃ」  そうつぶやく瑞円はずいぶんと狼狽した様子だ。  全休は努めて心を落ち着けた。松の根元に屈むと、辺りの様子に気を配る。  風が松林の枝や下草を揺らし、その音が耳に響く。それに混じって微かに女の声がした。耳をそばだてる。 「また衆道(BL)ですか」  確かに女の声だ。声のした方を見る。そこは薄暗い松林の中で、下草が繁っている。  それにしても声の主は、なぜかつてのわしの趣味を知っておるのか。 「なあ、どうしたってんだ。林の中に何かあるのかえ」  瑞円は小声で、屈む全休の脇に身を寄せて言った。 「女の声がした。聞こえぬか」     
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