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「ああ、どうしようもない女だ。そこで妻をもらったのだが、それがあの女だ。ところがわしが家督を譲って家を出るとなったとたん、兄嫁が還俗しおった。それでおやぎに、母は二人も要らぬ、さあ出て行けと。だが、おやぎとて一度嫁に出た女、帰る家など無い。だからああして連れ戻さんと追って来るのだ」
「連れ添って何年になるのかえ」
「三年だ」
「えっ、あの女、四十五、六ぐらいだろう。妻にするのに何でまたあんな年増を」
「あれで四十手前、三十九だ」
「それでも三年前なら三十六だ。大年増じゃないか。他にいなかったのかね。それとも後家さんかね」
「いいや、どちらも初婚だ。武家は跡取りか、養子に出るかして家督を継がなければ所帯は持てぬ。部屋住みの厄介おじも厄介おばも、終世独り身よ。まあ、たいていは相手を見付け、夜になったら通うものだが、武家には衆道がある。だから女は余るのだ。その余りを妻にした」
「何でまた、余りなんぞ娶るのかね。物好きな」
「いや、それはな。わしは今までずっと衆道に心を燃やしておったのだ。だから女に恋をした事が無いのだ。女など、身の回りの世話と、子を産み育てるだけと思うていた。だから余りでいいと思ったのだ」
「それが何でまた、女護ヶ島に渡りたがる」
「おやぎと一緒になって、女の良さを知ったのだ」
「じゃあ、おやぎさんと添い遂げりゃあいいじゃねえか」
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