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路地の奥深くには死体があった。
俺は血で汚れた刃物を息絶えて間もない男のそばに放る。返り血がつかないように量販店で買って来たブルゾンも脱ぎ捨てた。
俺は適当に投げたが、明石は死体の顔を覆うように被せてやっていた。
「死体の放置位置はここで合ってるな。凶器と上着の破棄も指示通り」
「そ。全部向こうがしてくれるって」
狭く薄暗い路地の空気はよどんでいる。
風の通りもなく、埃と湿気の臭いに生臭い鉄の臭いが加わって停滞していた。壊れた室外機に積もった砂埃が俺たちの身動きで舞っている。
路地の入口に人影が現れた。
俺も明石も反射的に動きを止めた。濁った空気に緊張が走る。
そこに佇んでいる相手は、黒いキャップを目深にかぶり黒縁の眼鏡をしていた。しかしその目元はキャップのツバの影になりわからない。鼻や口元は黒いマスクで覆っている。
黒いティシャツに黒いエプロンを着用していた。首から吊るしたエプロンは足首までの長さがある。魚屋や肉屋が着ているようなゴムのような素材のものだった。
「あ。どうも」
俺たちの緊張に気付いたのか、黒づくめのエプロン男は丁寧に頭をさげてきた。
俺は思わず明石のほうを見た。
相棒は目をまんまるにしながら首を横に振る。
「お勤めごくろうさまでした」
キャップには緑色の缶バッチがついている。男が身動きをするたびにゴムエプロンに怪しい光沢が動きまわる。
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