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ブックスタンドに並べられた雑誌を手に取った。 とくに興味があるわけじゃないが、表紙の赤い金魚が目についた。適当にページをめくっていくと、金魚の記事と飼育アイテムの紹介ばかり並んでいる。どうやら専門雑誌らしい。 手に取る機会もそうないだろうので、なんとなく文字を追ってみる。知らない世界のことが書かれているようで、思わず「へぇ」と頷いてしまった。 平日昼間の本屋だ。交通センターの七階にはいっている、規模も大きく品ぞろえも良い。昼食時間を過ぎた時間帯は、客の影はまばらだった。俺が立ち読みをしている雑誌コーナーも閑散としている。 一口で金魚といってもさまざまな名前がついていることを知り、驚愕の連発だ。が、すこしでも集中力を欠くと、憂鬱な気持ちが滑り込んで来る。 どうして明石はこういうときにいないのか。 どうして俺が苦手な相手と一対一にならないといけないのか。 いつも、なんでお前いるんだよってぐらいとなりでへらへらしているくせに。気だるさと苛立ちが仲良くならんで、俺の集中力を乱していく。 革靴の音が聞こえて来た。その足音は俺のとなりで止まり、誰かがやってきた。 顔は雑誌にむけたまま、目だけを動かしてそちらを見る。     
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