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紺のスーツを着た長身の男が、スタンドの雑誌に手をのばしているところだった。
「意外だね、そういうのに興味があるなんて」
銀縁メガネをかけたその男が言った。冷たい印象の端正な顔も目もこちらに向けることなく、静かな言葉だけを投げて来た。落ち着きというよりは、無感情な冷めた感じがする。
「あ。いや、別にそういうわけじゃ」
俺はひらいた雑誌にむかって言う。
「そういう梶さんも、そんな雑誌読むんすか」
肩を並べて雑誌を眺めるが、たがいに視線も顔も手元に落としたままだ。たまにちらりと目じりで伺うと、彼が広げている紙面には猫ばかりが載っている。
「好きなんだ、猫」
撫で付けた鳶色の髪。身体にあったスーツには糸くずひとつついていない。好きといいながらも雑誌を見つめる横顔には、なんら表情は浮いていない。
本当は興味など欠片もないんじゃないかとも思ってしまうほどだ。感情の乏しい顔は、銀縁のメガネで冷徹さを極めている。
彼のまわりの空気は恐々していて、居心地が悪い。
唸りたくなるような沈黙が続いた気がしたが、それはほんの数秒のことだった。
「明石くんは一緒じゃないのかい」
「あいつはなんか、眼医者行くって」
「眼医者?」
「ものもらいっぽいっす」
「そうか、それは大変だ」
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