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となりからページをめくる音が聞こえて来る。
「このあいだは悪かったね。連絡を入れないまま、代理を寄越してしまって」
「いえ」
俺もページをめくる。同時に、喫茶店のことを思い出した。梶さんが代理として寄越してきた、少年のことが頭をよぎる。
「こっち的には仕事がもらえれば、べつになんでもいいです」
「そういう訳にはいかない。今後は無いよう気を付けるし、連絡をいれる。明石くんにも伝えておいてもらえるかな」
水を一切通さない絶対無敵の撥水素材のような、真面目を通り超えて岩盤かなんかとも思えるような、そんな固い物言いで梶さんは言う。俺がこの人を苦手に感じている、これです、こういうところなんですよ、と書店の店員を連れて来て説明したくなる。
ひときわの息苦しさ。金魚が口をぱくぱくさせている感じだ。
そんな俺に、一通の封筒がさしだされた。
こちらを一切見ないまま、梶さんが出してきたそれを無言のまま受け取る。触った感じ、鍵のようなものが入っている。
「駅前のコインロッカーの鍵だ」
「……了解です」
ジャケットのポケットに押し込んだ。
読んでいた雑誌をスタンドに戻し、撤退を開始する。
梶さんは猫の写真をじっとながめたまま、動こうとしない。
立ち去る前に、なんとなく聞いてみた。
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