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「今日はどうして喫茶店じゃなかったんですか」 すると相手が顔をあげた。 このとき今日はじめて、互いの顔を見たことになる。梶さんは俺の問いかけに、少しだけ黙り込んだ。 「……それは」 「あっ、ジョージさん」 言葉をさえぎるように、どこかから声が聞こえて来た。 丸みの残る子供の声だ。聞き覚えがある。そして、そんなふざけたあだ名で俺を読んで来るのはひとりしかいない。 渋い顔で振り返ると、ひとりの少年が立っていた。 艶のかかる黒髪に、好奇心に輝くような大きな目が見上げて来る。丈の長いグレーのカーディガンに細身のジーンズ姿。背負っているリュックはヒョウ柄でぬいぐるみのような耳としっぽがついている。今日も首元にブラックのストールをまいていた。 「ハル、おまえその呼び方やめろって」 少年は俺の渋面を見上げて、うふふといたずらめかした笑い方をした。そして梶さんのそばに歩み寄ると、読んでいる雑誌をのぞき込んだ。 「梶さん、なに読んでるんですか。えっちな本ですか」 「ちがう。そういうこと言わないの」 眉間に細かいシワが寄る。明らかな非難がましい顔を向けられても、ハルはにこにこしたまま立っている。梶さんは少年を見下ろしてため息をついた。     
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