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たとえ子供が相手であっても、きっちりくみ上げた堅牢な言葉は変わらないらしい。たとえ相手がだれであろうと、態度が変わらないのなら、それはそれで一本通った生真面目さがうかがえる。かといって、俺の苦手が解消されるわけではない。 「じゃあ、いまからえっちな本のコーナーに行って、梶さんの好みのえっちな本を選んで来ます。自信あります」 歩き出そうとするハルの腕を梶さんが掴む。唸りをあげんばかりの素早さだった。 「待ちなさい。なんてことを言い出すんだ」 ハルは唇を尖らせて「ふーん」と鼻をならして、明後日の方を見ている。 「私の言い方が嫌だったのなら、ちゃんとそう言いなさい」 「べつにイラッとなんかしてません」 「ぶすくれた顔してるじゃないか。そういう意趣返しは勘弁してくれ」 ハルは自分のカーディガンのポケットから何かを取り出した。キャンディの包み紙を数枚、梶さんのジャケットのポケットへと放り込んでいく。 「ハルくんはこうなったら、本当にいじわるなんだ」 ポケットにゴミを放り込まれている梶さんは、抵抗もあきらめているのか、すべてを受け入れていた。その表情には悟ったような心の余裕すらうかんでいる。 「大丈夫です。ジョージさんにはしませんから。梶さんだけです」 「ほらね」 梶さんが苦々しくも、笑った。 俺たちはいくつかの言葉を交わして、別れた。 本屋のなかの大きな通路を正反対に歩き出す。     
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