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俺が首をかしげると、明石は素早くペンライトを取り出して、ドアノブを照らした。身体をかがめて鍵穴をのぞき込むと、パッと明かりを消した。一瞬、目の前の相棒が夜闇に沈んだ。
「こじ開けた跡があるよ。まだ新しい」
「誰かいるのか? 目標以外に」
明石はダッフルコートの内側から、ハンドガンを取り出した。
「……可能性はある。慎重に行こう」
「わかった」
相棒に習い、俺もハンドガンを握る。
冷えた手になじませるよう、何度かグリップを握りなおした。
倉庫のなかは、闇と冷気と静寂でいっぱいだった。
天井は高く、見上げても橋梁は夜闇で見えない。室内であるにも関わらず、空気は冷たくて外と変わらない。長年使われていないため埃と湿気と機械の脂のような臭いが混じりあい充満していた。
明石は鼻を鳴らすと、さらに他の臭いを探り当てた。
「血の臭いがする」
俺たちは事前の指示にしたがい、壁伝いに移動して、二階部分へ通じる階段へと足をかけた。ロフトのような空間に拘束された目標が放置されているはずだ。それを始末すれば、今回の仕事は終了だが、オレの鼻先にも、明石の背中にも、不安と緊張がちらつきのしかかっている。
鉄板を敷いたような階段を、足音を殺して、一段一段昇っていく。
銃口を前に向けたまま、進行方向を包んでいる闇を、睨みつける。
なにかが流れ落ちている。
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