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男が身動きをすると、靴底が砂利を擦るような音がした。わずかに視線を動かして見下ろすと、足元は使い込んだアーミーブーツに迷彩柄のパンツ。ダメージ加工のはいった赤いブルゾンのフードを目深にかぶっていて、顔は鼻から下しかわからない。 だが、鼻腔と唇にシルバーのピアスをつけている。よく見ると、フードの暗がりの中、耳たぶにも複数のピアスがぶらさがっているのが見えた。特に左の耳タブにはぽっかりと穴が開き、拡張されている。 顎の線や声の張りから行って、まだ若い。俺たちより年下の可能性も充分ある。 視線に気が付いた相手が、白い歯を見せてニッと笑いかけて来た。 「ごめんけど、俺さまくんがお話してるのは、あっちのお兄さんとなのね。あんたの生き死に握ってんのは俺さまくんで、いま、俺さまくん仏のてのひらの上なうなんだから、そこんとこ全力で大事だよ」 男の口腔内で舌が動いているが、なにか違和感を感じた。言葉そっちのけで相手の口の動きを凝視する。男の舌の先端が二股に分かれていることに気が付いた。見間違い? いや、裂けている。 俺たちを照らすライトの明かりがわずかに下がった。 明石はふぅと、凝り固まった緊張を吐き出した。 「仏さまのお言葉に従おうかな。こう見えて信仰深いんだから」 すると男が笑った。 フードから見える口元が吊り上がるようにして、粘着質な笑みを作り上げる。 「さすが、お兄さんは話がわかるお兄さん」     
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