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ひときわ冷え込む夜だった。 雪こそ降っていないものの、澄みに澄んだ冷気の底を歩いているようだ。 俺はライダージャケットの前をよせて、ポケットに手を突っ込んだ。となりを歩く明石も黒いダッフルコートに手をいれて肩をすくめるようにして歩いている。白い息が深夜の静寂に滲んでいく。 人気のない、古びた倉庫街だ。もともは運送会社の敷地だったそうだが、かなりまえから使われていない。俺が小学生のころから、幽霊が出るだのなんだので敬遠されていた場所だ。アスファルトで舗装された一本道の両側に、長方形の箱型の大きな倉庫がいくつも並んでいる。そのどれも、壁は錆で腐食し、窓ガラスは割れている。吹き寄せられた落ち葉や砂利が堆積し、アスファルトの隙間から雑草が背を伸ばしていた。 「なんかここって、おばけでそう」 明石が小声で言った。鼻の頭が赤い。 「倉庫で自殺した社長の幽霊が出るらしいぜ」 息が白い。空気は切りつけて来るように冷たく、頬を撫でては熱を奪おうとする。 「え。それホント? 社長、出て来るの?」     
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