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道の先から知らない男が走って来る。 バスや電車に乗り遅れそうなのか、男の顔や走り方から相当の必死さがうかがえる。だが、バス停も駅もこのあたりにはない。バスが通るような大きな通りからはるかに離れ、治安の悪さから駅も作られなかったこの地域で、必死を振りまいて激走している男なんて絶対ろくなもんじゃない。目を合わせないように視線を逸らす。 破れたフェンスから飛び出している雑草を見ていると、走って来た男がすれ違いざま、なにかを投げて寄越してきた。思わず、身体が動いて受け止めてしまう。パスされたのはジュラルミンケースだった。 「え」 寄越してきた男は、振り返ることなく走り去っていった。 気味が悪いので、かたわらの空き地に投げ捨てようとしたところで、道の先が騒がしくなる。見ると、黒塗りの車がエンジンを唸らせて突っ込んできた。さらに男が走って来た方向から数人の男たちが、怒号をあげながらやってくる。車が完全に停止するより早く、運転席以外の扉が勢いよく開いた。飛び出した男たちが俺を睨んで叫んだ。 「いたぞ! 殺せ!」 「いまさら逃げられると思ってんのかクズ男が!」     
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