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「その荷物をどうにかしてみろよ、てめぇの指ぜんぶ反対方向に追ってやる!」 世紀末のような罵倒が投げつけられる。一様に目を逆三角に吊り上げた、いかつい男たちの敵意と怒りと殺意が、ただの通りすがりの俺に思い切り叩きつけられている。 「いやいやいや、無関係だって」 男が走り去った方向を指さすが、誰一人としてそちらを見ない。 もはや俺以外見えていない。男たちの周囲には陽炎すらみえて来そうなほど怒気がまき散らされている。 「なんだってんだよ、ちくしょうが」 車内から湧いて出る男たち、道の先から走って来る男たち。その並々ならぬ殺意に圧され、俺はジュラルミンケースを持ったまま、空き地のなかに飛び込んだ。身長より高くまで育った雑草のなかをかき分けていく。後ろからは罵倒を原動力にするような騒々しさがついてくる。 「とりあえずは、」 生い茂った草木の海原を抜け、建物がひしめく狭い路地に出る。不愛想な灰色の似たような建物が並んでいて、気を付けて進まないと方向感覚が狂う場所だ。その渓谷のような細道は陽が届かず薄暗く、いつだって肌寒い。 いくつも角を曲がり続けることで、後ろから聞こえて来る怒号と足音が遠くなっていく。しかしそれもで諦めてはくれないようで、罵倒がこだましている。     
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