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少しだけ広くなった道を走っていると、てろてろした足取りで歩いている男がいた。
「おい明石。コラ明石!」
相棒はのんびりした動きでふりかえった。
「どうしたよ城島。身体のメンテナンスは終わった? 調子良いからランニング?」
「いやもう、整体受けに来たことなんか忘れたわ。お前、ちょっとこれ持って走れ」
息を荒げて膝に手をつきながら、問題のジュラルミンを突き出す。
「え。これ誰の? 城島のじゃないよね」
明石のくせに怪しんで受け取ろうとしない。
走って来た道から騒がしさが渦を巻くように接近してきていた。俺は明石の背中を押して、再び駆け出した。問答無用で背中をぐいぐいされて小走りになった明石は、近づいて来る怒号を耳にしてにやにやしながら俺をみてくる。
「なに。ちょっとも~、なにやったの城島~」
「なにもしてねぇよ!」
にやけた明石を叱る語気も荒くなる。
走り続けている所為で肺がはじけとびそうな俺とは反対に、明石の表情にはまだまだ余裕がうかがえる。俺のとなりを飄々と走りながら、ときおり後ろを振り返っては熱心な追跡者たちの姿を確認していた。
「あれって東区の西岡組じゃない? 内部分裂でごたついてなかったっけ」
「じゃあこのジュラルミン、どうにかするの手伝え」
「そこらへんに投げ捨てればいいんじゃん」
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