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「それでも追いかけて来そうだから、こうして逃げてんだよ」 「じゃあ誰かにパスしなよ。城島がされたみたいに」 明石に向かって差し出す。頑として受け取らないどころか「ぼく以外の」とすました顔でそう言った。 「じゃあ、次に出くわしたヤツにパスする」 俺たちの足音に、大勢の連なった足音が付いて来ている。 「でも、女の人とか子供とか、真面目そうな人とか、そういうのはやめてあげて」 「そんなのそいつらの運だろ。注文多いなぁ」 狭い通りをいくつか抜けて、広い通りに出た。目の前に人がいる。スカートの裾が揺れていて、後姿も明らかに女だった。見逃す。道沿いの建物から子供が飛び出してきた。だめだ。次。道の先に人影。近づいていくと、歩き方がたどたどしい。杖をついた老人だった。見逃す。十字路にサラリーマンが立っている。いけるか。スマホを耳にあて、苦笑いのような表情でぺこぺこしている。苦労とストレスが可視化出来そうだった。無理だ。渡せない。 十字路を突っ切ったところで俺は叫んだ。 「ダメだ! パス出来る間口が狭い!」 「みんな運が良いんだよ」 言い返したいが、余計な体力を使わないために歯を食いしばって飲み込んだ。 顎にシワをよせて必死に飲み下す俺をよそに、明石は周囲を見回しながら言った。     
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