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明石を先頭にさらに角を曲がり、建物と建物のせまい隙間に滑り込んだ。数年来人が踏み込んでいないことを語る大きな埃が舞い上がるなか、息を押し殺す。
間近で弾ける怒号。けたたましい足音が土石流のようにかたわらの路地を駆け抜けていった。誰一人として脇道を疑わなかった。数十人が一つの塊になって転がっていく。
喧騒が遠のいていく。
路地の影にちいさくなってしゃがみこんだ俺たちは、空を仰いだ。建物に阻まれて細長い帯のようにしか青空は見えなかった。
「すまん。出会いがしらの人殺しよ」
「まさか、あんなにふさわしいろくでなしだとは思わなかったんだ……」
膝を抱えた俺たちはおなじタイミングでため息をついた。
そしてどちらからともなく立ち上がり、路地をあとにした。
たとえ相手がどんなろくでなしであろうと、多少なりとも痛む心がまだあったことは発見だった。かなりの疲労と無視できないほどの罪悪感をぶらさげて俺たちは歩いて帰った。
昼間のばたばたの熱は完全に冷めていた。
だが、身体の芯が重たい。足の筋肉が張っている。脳が疲れたよぅと眠気という形でメッセージを送ってきている。目をこすりながら、重たい足取りで喫茶店にたどり着いた。
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