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たがいに顔を見合わせる。言葉が出てこない。
額とてのひらに冷や汗が浮かんでくる。
「それだけならまだしも、それを追いかけて来た集団を返り討ちにしたとか言うんだ。話を聞く限り、東区の西岡組のようだ。あそこはいま内部分裂の真っただ中で関わったら面倒くさいことになる。ケースの中身は見ないほうが身のため……」
空気の抜けた風船のように、梶の言葉がしぼんで言った。
事態の展開のしかたに、俺たちが互いに顔を見合わせたり、コップをうっかり倒しそうになったり、入り口のベルの音にビビったりしていた。こちらが困惑しているなんて、電話越しの梶さんにはわかりもしないだろう。向こうのほうがはるかにとっ散らかっているからだ。
梶さんは電話の向こうで誰かに声をかけている。
俺と明石は、電話の奥から聞こえて来るやりとりに耳を澄ませた。
「どうして開けたんだ」
梶さんの固い声が聞こえて来る。
対して、無邪気な男の声がした。
「違うよ、勝手に空いたんだよ」
「開けないと開かないだろ」
一切の感情を喪失したような、抑揚のない梶さんの言葉は、きゃあきゃあと、跳ねまわるように楽し気な男の声に飲み込まれていった。
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