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「じゃあ冬の倉庫のときも、あれ?ってなったのかな」
「なりましたね。これは誰の仕事だろう、と」
煙草を指に挟んだブルーの声は、明石とのやりとりの末、いくらか柔らかくなっていた。
「見覚えのある痕跡と、まったくはじめましての痕跡が、混在していた。前者はお二人のものだとわかったけれど、後者はわからない。合同作業だった訳でもなさそうだったので、他所の同業者が出張してきたのだろうというので落ち着きましたが」
ふぅと煙を吐き出す。
それは白くぼやけて、湿気のなかに匂いを残して消えていく。
スプリットタンの同業者を思い出す。ひときわ冷え込んだ冬の倉庫で遭遇した男だ。
奴と遭遇したのは俺たちだけだが、掃除屋の面々も痕跡だけはキャッチしていたのだ。
あれ以来、出くわしたり噂を聞いたりはしていない。だが、俺たちの脳裏にときおりちらつく、ふざけた口元の笑みが、耳元を飛んでく蚊のごとくうっとうしい。
「そういうかたちで、誰かがぼくらの仕事を見てるとは思わなかったなぁ」
すると、本当にくぐもった羽音のような音が聞こえて来た。おもわず当たりを見回してしまうが、虫などおらず、ブルーがポケットからスマホを取り出した。正体は着信バイブだった。
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