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いつもの喫茶店マダム・ストロベリー。
普段ならスピーカーから流れるのはジャズだが、なぜだか今日の店内には邦楽が漂っていた。ときおり懐かしい音楽が聞こえて来る。奥のソファ席で対面に座っている明石が、まるで鍵盤でもはじくように指先で机をたたいて、歌詞を口ずさんでいる。ご機嫌丸出しだった。
俺は、相棒相手に苛立ちを少しも隠さず、「なぁ」と声を荒げた。
「そんなことより、俺の頭のなかのことだろ」
寝不足も相まって、不機嫌がとまらない。
「昨日の夜から頭から離れねぇんだ。寝ても覚めても、居座ってる」
そう言ったそばから、あの言葉が頭のなかに、胸の奥に、鳴り響く。昨日からこれの繰り返しだ。どこを見ようが、なにを考えようが、意識の隙間にそいつは滑り込んで来ては、俺の精神をすり減らしてきた。
「あれ。その話ってまだ続いてたんだ」
明石はおどろいたように目を丸くする。
俺は何も言わず、手元のおしぼりを投げつけた。
「たしかイヤーワームっていうんだよ、その現象」
飛んできたおしぼりを、くるくるとまるめて太巻き状にしている。
「歌とか、同じフレーズが頭の中から離れない、とかね。おもいろいネーミングだよね、耳の虫が悪さしてますって」
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