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「マジか。口開けてテレビ見てたから、入って来たのかな」
「たぶんそう。で、なにがそんなに城島をおもしろおかしくしてるの?」
その物言いはさらに俺を憮然とさせる。
太巻きになってもどってきたおしぼりを転がして、弄ぶ。
「芸人のネタだよ。それが昨日の夜からずっと、頭んなかに居座ってる」
「だれの?」
「超絶怒涛のお笑い芸人……」
唇を噛んで言葉を止める。目を閉じ、頭のなかを空っぽにするよう努めた。でないと、脳内のイヤーワームが勝手に続きを再生してしまう。昨日から永遠と繰り返されている、あのフレーズが、こだまのようにいつまでも響き渡ってしまうところだった。
明石はなにも言わない。
あぁイヤーワーム。遠くで口上の続きをなぞるのをやめてくれないか。
俺たちのテーブルは沈黙した。
店内に流れる音楽が、一番目のサビから二番目に移り、再びサビに入ろうというところで、
「――ジャスティス!!」
明石が叫んだ。
「やめろ! ドンピシャのタイミングで叫ぶんじゃねぇ! 病むだろうが!」
太巻きおしぼりを再び投げつける。
相棒はケラケラ笑って、胸に直撃したことを気にもしない。
「じゃあさ、もっと別のフレーズで上書きしたら? 上書きを繰り返して、最終的には歌とかにつなげればまだ良いと思うよ」
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