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ハルはひとりでころころと笑っている。角のないその笑顔には、引っかかっていたものがなくなったような爽快感すら浮かんでいる。イヤーワームも仕事以上の業績を押し付けられていい迷惑だ。歯を食いしばって百歩譲っても、原因がわかったところで、梶さんの奇行への解決策はなにひとつとしてないのに。 あれ? というか最初はなんの話をしていたんだ。思い出せない。 「大変お待たせしました」 紙包みを持ったマスターが大股でやってきた。 どうやら、ハルが頼んでいた焼き菓子が出来上がったらしい。 「わぁ、いい匂い」 ハルと明石の表情がほぼ同時にゆるんだ。 ふたりの顔を見たマスターは、嬉しそうに口元を緩めながら、エプロンのポケットから伝票を取り出した。 すると、ポケットからこぼれるように、なにかが落ちた。 「おっと」 マスターの足元に割りばしが落ちた。 俺の頭の中心あたりで、白い稲妻がカッと走った。 席から腰を浮かし、目の前で起こったことが真実なのか、この目で確認する。 明石が呟いた。 「足元に……」 「お手元」 その続きを口にしたのは俺なのか、はたして、イヤーワームなのか。 頭を抱えるほどわからない。
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