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「梶さんは忙しさが極まると、エアロスミスのミス・ア・シングを無表情で歌い出すんですけど」
「それって大丈夫?」
「イヤーワームを飼ってたからなんですね。やっと納得できました」
「おい、それちょっとちがうと思うぞ」
無邪気に笑うハルへ、困惑にまとわりつかれた俺と明石は顔をむける。
「なんで歌うのか聞いても、歌ってること自体覚えていないみたいで」
少年は手元の保存袋を指先でいじっている。
「覚えてないって、無意識にってことか?」
「仕事に忙殺された末のミス・ア・シングなら仕方がないかも」
相棒がなにを言ってるのかわからないが、ひどく同感な気がして、頷いた。
「まえに別のカフェに行ったとき、たまたまその曲が流れていたから、梶さんに言ったんですよ。好きな曲が流れてますよって。そしたら梶さん、はじめてフルで聞いたって言うんです。いつもフルで歌ってるのに」
明石が真顔で黙り込んでしまった。
たぶん俺も似たような顔になっていると思う。
なんの話をしていたんだっけ。ちょっと怖い話だったか?
梶さんの意外な一面を知って親近感が湧くどころか、聞いてはいけないものを耳にしてしまいむしろ距離感がわからなくなってしまった。
「それもこれもイヤーワームのせいなら、なっとく納得」
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