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その時、達也の魂は、遠い未来へと吹き飛ばされたのだが、同時に転倒し、す
ぐに起き上がった勇は、すぐそばで倒れたまま動かない達也の姿に驚き、慌て
て、大声で叫びながら、倒れている達也を残し、助けを呼びに走っていった。
未来に吹き飛ばされた達也(の魂)は、その頃、不思議な感覚に襲われていた。
何となく、身体の感覚がなく、宙に浮いているような気分なのだ。
「俺、死んじゃったのかな。」
雷に打たれたという記憶(残像)は、魂として浮遊している達也の心象風景の
中にも残っていたので、その時の達也が、そんな気持ちをもったとしても、不
思議はない。
但し、達也は死んでいない。いや、身体は仮死状態だったのかもしれないが、
少なくとも、魂が天に召されたわけではない。
単純に、身体と魂とが、雷をきっかけに、分離してしまっただけである。
しかも、分離し、魂が行き着いた先は、30数年後の未来、達也がもうすぐ、
50歳を迎えようとする、ちょうど、その頃の時代であった。
浮遊する若い頃の達也の魂は、自分自身の年を取った魂と結びつき、その記憶
や思いを共有する事が出来た。
但し、肉体に閉じ込められた未来の達也には、自分の若い頃の魂が近くで浮遊
しているなどとは、思いもよらない事であった。
未来の達也は、苦悩の表情に満ちていた。
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