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ぽつりとひとちごちて、ため息混じりに紫煙を吐き出した。
自分自身のセクシュアリティがそうだけれど、だからといってこういうものを好んで聞きたいとは思わない。リアルと妄想はまったく交わらないと思っているからだ。
聞きたいが怖い、というのが本音であるが、しかし浩史が出演したものは興味があった。
裏面に書かれてあるあらすじを読んだだけでも、その内容の一部は窺い知ることが出来る。
実際、彼がこの男性と、と考えただけでも、それが仕事だろうが納得できないものがあるのは事実だ。
夕方から仕事なんだ、とバタバタと出かけて行き、夏樹を困惑させる土産を置いていってしまった。
浩史は遅い時間から仕事に行くと、いつも終わりが夜中になる。自宅に帰るよりも夏樹のアパートが近い為こちらに来ることが多い。帰ってきたら聞いてみるかと思い、それを机の横に積みあがった本の上へと置いた。
(一体、何をどう聞くんだ、俺)
今はそれよりも、自分の仕事が優先だと思い直して、PCの画面を睨んだ。咥えタバコから伸びる副流煙が、目に染みて片目を眇める。
詰まってしまったプリンターを小突いてから仕事の続きを始めるが、どうしても集中できずに立ち上がった。
「だめだ、気になる」
さっき置いたCDをもってリビングへ向かった。ビクターのEX-AR7の電源を入れ、CDトレイにディスクをのせた。キュルキュルと読み込む音が聞こえて、静かな川のせせらぎが流れ始める。
(ヘッドフォン、しとくか)
念のために、と黒のオーバーヘッド式のものを装着した。聞こえてくる浩史の声は切れが良く耳に心地いい。高めのキーが時々女性っぽく、凛とした感じが清涼感を感じさせる。ベッドの上ではもっと甘く鳴くのにな、と夏樹は一人で苦笑しながら耳を傾けた。
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