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#01
散乱した本や資料、一度篭ったら出てこないという夏樹の部屋は、カオスと化していた。推敲用の用紙をプリンターに詰まらせて、もう一時間格闘したが変化は無く、それに嫌気が差した夏樹はぷかりとタバコの煙を吐き出す。
見た目に反して彼の仕事は少女小説家である。言葉を口にすればいかにも男っぽく、体つきも行動も粗雑なのに、その指が一度キーボードを打ち始めると、甘い言葉が羅列されるのだ。
椅子の背もたれに気だるげに体重をかけ、手にしているのはCDケースだ。問題はその中身で、タイトルからして何やら怪しげな、しかもそのジャケットは明らかに普通ではない。
「哀情のかなたに……って」
どういうものなんだ、と夏樹は慰ぶかしげな表情を浮かべる。すぐにでもこの持ち主に聞いてみたい気もするが、浩史は仕事に出かけてここにはいない。ジャケットには綺麗な男の子が半裸で艶かしく抱き合っている。
世の中にこういうものがあることは知っていたが、今まで目にする機会はなかった。
ケースを裏返して出演者を見ると知った名前が書いてあるので、これは浩史の出演作だと分かる。上の方に名前が記載されてあり、おそらく主演だろう。しかし、そこには男性と思われる名前しか記されていないので、うーむ、と唸るしかなかったのだ。
今までもアニメや外画の吹き替え、ナレーションやボイスオーバーなどの仕事のDVDやらを見せてもらったことはある。だが、こういうCDは初めてだ。
そして、これは浩史に渡されたものではなく、彼が夏樹の部屋に置き忘れてしまったものである。
中に入っているブックレットを開こうとしたが、読んでしまえば何と無くいい気分がしないかも、とまだ見ていない。
「これは、BLというやつだよな」
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