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別の日の二人
それは突然の呼び出しだった。いつもは行かないような、かわいらしいパラソルのあるカフェ。大通りの並木道に面したその店は、OLや若い女性が好む、カラフルな色のテーブルや椅子でコーディネートされている。
(なんだよもう……いつも突然だなぁ)
床屋に行ったのはいつだったか、伸びっぱなしの茶色の髪をかきあげて、通りの向こうにあるカフェに視線を送った。
数人の客の中に彼の姿が見える。夏樹はその中に目的の人物を見つけて、少し目を細めて表情を和らげた。
白いシャツはよれていて、干す時にしわを伸ばさなかったのがそのまま残っている。足元も年季の入ったサンダル履きで、素足が少し寒そうに見えていた。
車の流れを読みながら小走りに道路を渡りきる。無駄に長い足を億劫そうにしながら、彼の元へと近づいた。
「で、来たけど……?」
わざと無愛想にして彼の反応をうかがった。
「あ、いつも突然で……ごめん」
焦ったように立ち上がり、こちらの機嫌を伺うよな笑みを浮かべている。
浩史は売れっ子の声優だ。それがこんな大通りで待ち合わせとは、何とも大胆な事である。今や声優は裏家業ではない。
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