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同じ3階のフロアの総務部で、カウンターに積まれた新聞の山から、自部所の分を抱え上げて、経理部に戻ろうとしたその時だ。
「おはようございます」
後から柔らかい声を掛けられて、振り返った俊は固まった。
ショートヘアーの女の子が、にっこりとほほ笑んでいる。目がぱっちりとしてフランス人形みたいだ。片笑窪(かたえくぼ)がなんとも愛らしい。色が白くて柔らかそうで、石村萬盛堂のマシュマロみたいだ。
「今日から総務部でお世話になります、原真奈美です。よろしくお願いします」
女の子はにこやかに挨拶すると、舜に頭を下げた。
「あ、えー・・・、僕は経理部の内藤俊です。よろしくお願いします」
必要以上に頭を下げてしまった俊である。
「わたし、慌てて早く来(き)過ぎました。8時45分始業ですよね。総務部の人が、まだ誰もいなくて・・・」
また片笑窪が微笑(ほほえ)み、俊は頭の中が痺(しび)れあがるのを感じた。
「あら、あなた原さん?随分早いのね」
人事担当の斎藤女史が悠然(ゆうぜん)と現れ、眼鏡越しにジロリと一瞥(いちべつ)したので、舜は早々(そうそう)に引き揚げた。舜は、いつも怜悧(れいり)な表情の斎藤女史が苦手(にがて)なのだ。もっとも、斎藤女史を得意とするような者は、社内にいないだろうけど。
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