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「それもあるかもしれないね。でも、知識だけじゃないんだ」
千鶴は分からずキョトンとしていた。夏弥は少しからかい気味に笑った。
「香川、目の前のものをちゃんと見つめないとダメだよ」
「・・・?」
千鶴はまだ意味が分からず見つめていた。
「香川は、僕の展示してた紫陽花の写真を好きだと言ってくれたよね」
「はい!」
「香川の中には、その紫陽花があって、それに近づこうとしている。けど、その時と同じ紫陽花はないんだ。天気だって日時だって違う。一見同じように見えるけど、新しく咲いた新しい紫陽花なんだ。香川は、僕の紫陽花をコピーしようとしているだけなんだ」
だからね、と言いつつ、夏弥は千鶴に眼鏡をかける。
「今、目の前の紫陽花を見ないとダメだよ」
千鶴の目には、目の前の夏弥のはにかんだ顔がぼやけることなくハッキリと見える。
「先輩、これ」
「そう。目の前の俺のことも見てね。伊達眼鏡なんかに騙されちゃダメだよ」
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