0人が本棚に入れています
本棚に追加
千鶴は常にコンタクトレンズをしている。けれど、前日の寝不足のせいか、コンタクトを入れるときに刺激が走った。千鶴はあまり眼鏡姿で外に出たくないため、いつもなら時間をおいて入れるのだが、今日は急いでいたために仕方なくこの姿で来たのだった。
「それ、普段は賢く見えないってことー?」
千鶴は眼鏡の山の部分に人差し指を当て、くいっと賢そうに上にあげてみせた。鈴はそれを見て笑っていたが、千鶴は夏弥を思い出してしまった。脳が起き始めたようだ。
昨夜、千鶴が理解したことは、紫陽花の撮影法についてだけだった。確かに、自分は先輩のコピーをしていたのだと反省をした。そして、やっぱり尊敬できる先輩だ、と憧れの人が近くにいることがとても嬉しく思えた。だが、夏弥自身のことは何一つ理解していなかった。思い出すと千鶴の胸はキュッと絞られ鼓動が早くなった。千鶴は展示された写真を見た時からずっと夏弥のことが好きだった。憧れの夏弥のことが。
「・・・ちー?」
鈴の呼びかけで千鶴は我に返った。
「え、はい!」
「はいー? まだ寝ぼけてんの?」
夏弥のことを思い出していたからか、とっさに敬語で返してしまう。
「ごめんごめん」
そうしてたわいもない会話をしているうちに、一時間目開始のチャイムが鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!