図書館の森

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図書館の森

 夏の盛りを過ぎたとはいえ、一歩外に出ると午後一時の暑さが襲いかかってくる。  耕平(こうへい)はスマートフォンを取り出し、図書館までの道のりを確認した。思ったより歩かなくてはならない。図書館は駅の近くにあるというから、いつも使っている駅前の駐車場に車を停めたことを少しだけ後悔した。地図アプリによれば徒歩十分もかからないらしいが、少し歩いただけでも汗が吹き出してくる。  しかし耕平が気になったのは吹き出す汗よりも、歩くたびに揺れる腹部の贅肉だった。つくばに引っ越してきてから移動は車ばかりで、歩く機会が減っていた。その結果が腹回りに現れていた。  耕平が茨城県つくば市に住み始めてもうすぐ半年になる。引っ越しのきっかけは、昨年の夏に妻の父親が倒れたことだった。以前からいずれは地元に戻りたいと言っていた妻は、あっという間につくばへ移住する手はずを整えてしまった。  妻と息子は、すぐにつくばの生活に馴染んだ。  つくばが生まれ育った街である妻はもちろんのこと、一人息子の拓人(たくと)も小学校へ入学するタイミングだったのがよかったらしい。     
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