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『メゾン脱穀』
彼が数時間前に契約したアパートメントの名称でございます。あまりのセンスの無さに脱帽してしまいました。
「メゾン脱穀か・・・家賃の割にはマシな見た目なんじゃないか。」
南野廉太郎は、つぶやきながら所々血痕のついた錆びた階段を上がっていきました。
アパートは2階建の木造。築年数は50年以上。下北沢駅から徒歩10分という利便性の高い立地にしては破格の家賃なのです。
誰がどう考えても、いわくつきの物件として考えられません。
そして彼は先ほど契約したばかりの『204号室』の鍵を開けるために、施錠された南京錠に手を伸ばします。
「えーと、確か番号は・・・6・・6・・6・・。」
ガチャ・・・
ドアを開けた瞬間に、彼の鼻をただならぬ異臭が襲いました。
「うっ・・・・?なんだこの匂い・・・。今まで嗅いだことがない匂いだな・・。まあ、格安の家賃だしこの程度で文句言ってちゃダメだよな。ここは東京だもんな。」
尋常ならぬ異臭を物ともせずに、廉太郎氏は部屋の中央へと進んでいきます。
LDKは7畳と1人暮らしには十分な広さでございます。
備え付けの電灯の紐を引っ張りました。
すると、彼の目に飛び込んできた物は、天井の梁に釘で打ち付けられた、縄で作られた輪っかでした。
そして、その梁にはこのようなメッセージが書かれていました。
『井川団十郎、ここにあり。我が人生、後悔ばかりなり。 平成29年12月31日』
「・・・・うん、そういうことか!だから安いのか!そりゃそうだ!あははっはー。」
完全なる事故物件なのでございます。
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