【白い春ー05】

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【白い春ー05】

 今年の冬は暖冬とのことだったが、北の発端の大地にはその恩恵は微々たるものだった。  寮から学校へ続く大地が本格的な白に覆われるのが、平年より一週間遅かったくらいのものだろうか。  そして通年のクリスマスコンサートならぬ卒業発表演奏会の日も、常に降り続く白い結晶に負けじと足を運んでくれた地元の方々、市の学校関係者及び学内の教師陣に立ち見の在校生も含め、概ね盛況に幕を閉じることが出来た。  第一楽章で金子のチューバが半音ずらすこともなく、トロンボーンも綺麗にハーモニーを盛り上げた。  第二楽章のオーボエの主題は奏者の硬質な堅実さそのものを表現しているかのごとく、オブリガートにトリルと目まぐるしく変わる旋律を難なく吹きこなしたフルートの少年には、演奏の途中であることも忘れて拍手の賛辞を送りたいくらいだった。  第三楽章。素人の観客にはわからなかっただろう、第一バイオリン主席のソロから始まった瞬間、主に教師陣の間で緊張の戦慄が走った。アレンジと言うには大胆すぎる始まりだったからだ。  だがその美しい旋律を聴いている内に、最初に感じた違和感などすぐに忘れてしまった。  主席第一バイオリンだけがピチカートに参加していなかったのを不思議に思う間もなく(そして奏が弦を切るアクシデントもなく)、流れる旋律に身を任せ、最後にもう一度、主席バイオリニストによるソロが流れた時など、まるで初めからそうあったかのように自然と聴き入れてしまっていた。  憂いを経ての喜びを噛みしめる、そんな主題に基づいて結ばれる第四楽章はまさに高校生ならではの青春を音というエネルギーに変換されたかのような力強さをもって、祝福のファンファーレを演奏しきった奏者達へのご褒美は、当然、惜しみ無い拍手の喝采だった。  この中にはこの演奏を最後に、音楽の道から離れる者もいなくはない。  そんな彼等の涙を止めることなど誰にも出来なかった。  校歌のオーケストラバージョンをもってアンコールを終えた時には、楽屋袖は互いを褒め称えあう声なき声に包まれていた。 *    *    *    *    *
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