【白い春ー05】

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 そして年が明け、推薦入学が決まっている者、はたまた就職の道が決まっている以外の者達にとっては受験という壁との戦いが始まった。  正式に音楽大学への推薦が決まった遠山や聖、音楽留学決定の奏や高橋紗栄子等非受験組の中には、木下の姿も常に混じっていた。  だが誰も木下の卒業後の進路を知る者はいなかった。  遠山でさえ再三問い詰めたものの、その都度木下は笑ってやり過ごすのだった。  こいつに訊くのだけは癪だと思いつつ担任の遊佐にも尋ねてみてが、「生徒の個人情報は教えられませーん」と、やはりおちょくり返されただけだった。  気がつけば暦は三月になっていた。卒業式も最早目前だった。  卒業後の自分の進路こそ(新居も含め)遠山は木下には伝えずみだったが、それでも何も語ろうとしない木下の意図がわからなかった。  木下にとって自分はただの幼馴染み、それ以外には全く、欠片も必要とされていない存在だったのか。だとすると自分と木下の縁は、この卒業と共に途切れてしまうのか。  そんなのは嫌だ。それだけは嫌だ。たとえ木下にとって自分は煙たいだけの幼馴染みだっただけだとしても、自分にとって木下はなくてはならない存在なのだと、もう何年も前から抱えている自分の「想い」を思うと諦められない遠山だった。  とはいえこの「想い」は相手に押し付けていいものとは違うということもわかっていた遠山だっただけに、一歩を踏み出すなどもっての他、ただ少しでも自分の存在が木下の中にあってくれればいい、それだけで自分は前を向いて生きていける、遠山にとって木下とはそういう存在であり、それだけが遠山の望みとも言えた。 (真吾───)  いつもと変わらぬ雪景色の中、寮へと向かう二人の足跡だけが、綺麗に並んで雪原に跡を残していた。
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