【白い春ー01】

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【白い春ー01】

   卒業発表会の曲目を知った瞬間、遠山晃は早々に溜め息を衝かずにいられなかった。  チャイコフスキー作、交響曲第4番。  自分達の学年の主席バイオリン奏者の顔を思い浮かべて、天を仰ぐしかなかった。  遠山が木下を見つけたのは、学校の屋上でだった。  まだ雪の気配を感じない10月の屋上とは言え、北国の秋はあってないようなもの。実際、涼しいを通り越し若干の肌寒さを覚えた遠山だったが、寒さに強い木下は衣替えも過ぎた時期だというのに、未だシャツ一枚の姿だった。きっと夏の衣替えの時に、ジャケットをどこにしまったのかわからなくなったのだろう。寮に帰ったら探してやらないと、と思いながら遠山は手摺に寄りかかって、パッヘルベルのカノンを口ずさんでいた幼馴染みに声をかけた。 「真吾」  だが敵もさるもの、遠山の発したひとことに振り向くまでもなく先回りした答えをくれた。 「まだやってもねぇことに説教されるのは遊佐だけで充分です。まぁ俺は本番でもバックレますがね」 「おまえなぁ……」  未遂であっても決行予定であれば犯罪予備軍みたいなもの、充分説教に値すると判断くれ遠山は言を紡いだ。 「そんなにピチカート奏法が嫌いか」 「嫌いってーより受け付けないだけで。俺はしなる弓を見てるのが好きなだけなんで。指で弦を弾いたところで面白くもなんともねぇ」 「『悪魔のトリル』を弾きこなせる腕を持っててたったそれだけのことが我慢出来ないなんて、ホントもったいない奴だな、おまえは。本気で音大に行かないつもりか」 「これ以上、『音楽』を押し付けられるのはごめんでなんで。知ってますか? 遠山さん。音楽ってのは『音を楽し』んでなんぼなんですぜ?」  木下の言いたいこともわからなくない。けれども木下のバイオリンを生で一度でも聴いた人間なら、誰もが思うに違いない。もっと聴きたい、聴かせて欲しい、と。  遠山はそんな彼等の心の声を代弁した。 「それを言ったら『音を楽しませる』でも『音楽』になるぜ」  木下はあまりにその遠山らしい言い回しに、初めて顔を振り向かせると、 「あんたみたいな人間こそがバイオリニストになれば良かったんだ」
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