【白い春ー01】

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 オケの中でも一番目立つし、主席バイオリニストなら基本、コンマスも兼任。ソリストとして名を馳せるにも、ピアニストかバイオリニストくらいしか日本では需要が少ない。クラシックのバックボーンが、歴史が浅い日本では致し方ないことだろう。  そんな中でもオーボエ奏者として、この時期にしてすでに某大学のほぼ推薦を獲得している遠山は遠山でその実力は充分あるわけだが、第一バイオリン主席という肩書きに敵うものはない。  客席から見上げ見やる斜め下からの遠山の横顔はさぞ美しいことだろう。  その様を想像し、木下は自分でも予想外なまでの甘い笑みを浮かべてしまっていた。  が、遠山はその笑みに何を思ったのか、嫌に苦み走った顔で木下から視線を外すと、らしくなく言葉を飲み込んでその場を濁した。木下の顔がふっと地に戻る。そんな空気を察したのだろう、遠山は慌てて「ともかく」と言った。 「最後くらい、真面目にやれよ。俺達全員の最後の演奏なんだ。卒業したらみんな散り散りなんだぞ。俺も、おまえも、みんなみんなだ。全員の最後の思い出になるんだから、一度くらい我慢しろよ」 「……そんなもんですかね」  遠山の言葉に木下はつまらなさそうに答え、頬杖をつき再び校庭の向こう、見えるような見えないような遠くを見るような目をしていたくせに、不意に小声で「遠山さんも?」と、真隣に居た遠山に話しかけてきた。  視線の先と意識の向きに関係はなかったらしい。遠山は唐突に話しかけられた印象を拭えぬまでも、木下の問いかけに、「たりめーだろ」と考えるまでもなく答えていた。  そんな遠山に木下は再び、「ふーん」と気のない返事をくれて、今度こそ心も視線もどこか遠くへなげやってしまった。 幼馴染みでありながら、木下が遠山に多少の丁寧語が入るのは、元は遠山と木下の姉が同じ音楽教室に通っていて、木下はその二年後に同じ音楽教室に通うようになったことから、一応、遠山を音楽に関しては先輩と崇めているからだ。 もっとも木下の姉は弟の音楽の才能に触れた瞬間から自身は音楽を──彼女はピアノを習っていた──から離れてしまったが。 けれども木下にとって遠山が、同じ歳なのに自分よりもよっぽどしっかりしている部分含め、未だ丁寧語が出てしまうくらいには尊敬の念はあるものの、それと今回のことは別問題だと切り離して考える他なかった木下だった。
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