【白い春ー02】

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【白い春ー02】

「あ、居た。しんご、しんご!」  遠山が木下を連れて教室に戻ろうとしていた途中、うるさいのが飛び出してきた。  薄茶色の髪を長く伸ばし、後ろに一つ三つ編みに纏めている、木下に劣らず人目を惹かずにいられない姿な上、木下とは真逆に人目を集めることに頓着のない無邪気な悪魔だ。  名前は聖。この三年間、フルートの主席奏者の席を一度も誰にも譲らなかった強者だ。  その聖はニッコリ笑顔を浮かべながら隣の遠山には目もくれず、木下に飛び付くと言った。 「卒業発表会の課題曲、見た? しんご、また第三楽章、すっ飛ばす気?」  訊き方こそ無邪気を装っているも、真吾ならやるよね、と確信している時点でこれはただの嗾けに過ぎない。  あぁ今から楽しみだ、と言わんばかりのだめ押しの笑顔で木下の頬に派手なリップ音を立てると、「じゃあねー」と遠山の制裁鉄拳が飛んでくる前に風のように去っていった。  揺れる三つ編みを睨みやるしかなかった遠山とは対称的に、何事もなかったかのように再び歩みだす木下。  遠山は聖が触れた木下の頬に自身の手の甲を押し当てると、少しは避けるとか抵抗しろよ、と言いながら勝手に拭った。  だが木下はそれにも別段反応を見せるでもなく、気にしなけりゃいいだけでしょう、と、遠山の目を見ながら言った。  その真っ直ぐな眼差しは言葉とは裏腹の何かを含んでいるように見えたのは、遠山の気のせいか願望が見せた幻か。  ゆえに遠山は裕に一拍の間を空けてしまっていたことに気づくやいやな、慌てて触れていた手を引っ込め言った。 「悪かったな」 「なに謝ってんです?」  木下の言葉に他意はなかった。だけに余計、虚しさを感じずにいられなかった遠山だったが、なんでもねぇ、と誤魔化すことしか出来ず、木下を追い越し教室へと足を踏み入れた。途端。 「あー、どこ行ってた、このドS!」  先のとは別の意味でうるさい人間がここにも居た。  先の聖は木下がお気に入り過ぎて構わずにいられないうるささだが、こっちの少女の場合は本気で心底、木下のことが嫌いで、それに対し基本、他人に興味を示すことのない木下もどうやらこの少女のことだけは無視できないらしく、それはまさに前世の因縁とでも言うしかないくらいの犬猿の仲を様していた。
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