【白い春ー04】

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【白い春ー04】

 オーケストラの第一音は、全楽器のチューニングから始まる。  オーボエの出す「ラ」の音に合わせて各自それそれが音階を揃えるのだ。  オーボエが一番、湿気や温度、ホールの形状により変化を一番受け易い繊細な楽器につき、日本ではほとんどのオケでチューニングはオーボエ基準となる。  その日の練習も遠山の出す一音から全ては始まった。遠山はこの一瞬にして厳粛となる空気感が好きだった。 「はーい、ストープ。そこ、チューバ。半音ずれたぞー。トロンボーンも半拍遅れたな? おいおい、まだ第一楽章だぜ、勘弁してくれよ。譜面台はただの飾り、暗譜は基本だぞー。そもそも一度演った曲だろうが。ソロの課題部分とオケで合わせて弾く違いの戸惑い以前の問題だろーが。あーもー、今日は解散だな。次の合同練習までに暗譜くらいしとけよー」  言って遊佐が指揮台から降りようとしたところを、チューバ担当の金子みえ子がすかさず手を上げ突っ込んだ。 「だって先生! これ、課題の時の譜面とアレンジが違い過ぎます! それを初見でいきなり通して演奏しろって方が無理だと思います!」 「金子ぉ、おまえ一応、音大狙いだったよなぁ? そんでもってその後、プロになるんだよなぁ? だったらこんな程度で音ぇ上げてんじゃねーぞ。他、文句ある奴いるかー?」  意見ならまだしも文句と言われたら誰も何も言えるわけがなく。遊佐が講堂を去っていくのを見送って、生徒は各々行動を始めた。  その場で譜面を読み出す者、自分のパートを音で確認する者。そんな中、ざっと譜面を通し見していた西村弟が「あれ?」と呟いた。 「これ、第三楽章……随分と変わってませんか?」  西村弟の言葉に幾人かが反応してみせる。元来の楽曲でいくなら5、6分といった三部作のスケルツォに、本来ないはずのバイオリンのソロパートが最初と最後に加えられていた。
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