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遊佐オリジナルと言うよりは、本来の弦楽器パートをピチカートではなく弦で弾くようにアレンジされたと読むべきだろう。
ただし、全てが16分音符、スタッカートよりトリルかと言いたくなるくらいの細かい音の連打となっている。
最初にそれが12小節、最後にも同じ12小節を繰り返して終わりとなるように編曲されていた。
そのアレンジを見て誰もが思ったことは、木下をピチカート奏法から解放してやるための贔屓だと考えた。
木下がピチカートを演奏しなくてもいい理由を作ってやったのだと思った。
だがそんな周囲からの視線を気にする風もなく、木下がパラパラと楽譜を捲りながら、得意の無表情な声で言った。
「第一楽章、金管楽器。全体的に半音高めの構成になってる。重たい主題を弾く木管楽器に対抗してのことかも知らねーが、金子の癖を見抜いてわざと半音ずらしたのかも。おまえ、緊張すると半音下がりやすくなるの、知ってっか? 第二楽章は増えた楽器以外のアレンジはねぇな。まぁ、オーボエとフルートがメインの章だから遊佐も心配いらねーってとこだろ。第三楽章のアレンジは確かに大胆だけど、この演奏会は地域住民も招待される交流会みたいなもんだろ。素人にピチカート奏法は『音』であって『音楽』としては親しみにくい。それを見越してピチカートをあえてメロディ化したのかも知れねぇとは考えられねぇのかよ? 他にも細かいアレンジ入ってる部分、てめーらじっくり読んで弾いてみるんだな。おまえ等のいい癖も悪い癖も全部詰まってる」
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