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ならば、今、この広い本邸内は自分たち兄弟と複数の家政婦たちだけだ。
そんな生活は物心つく前からずっと変わらない。
この花園の中に、自分たちは閉じ込められている。
「あ。お昼はいつが良いですかって、一枝さんに聞かれたから、2時くらいにお願いしますって答えたけど・・・」
勝己は、何も言わない。
知っているだろうに、見ているだろうに、誰に対しても、口を開かない。
「うん、それがいい」
小さく肯いて弟は向かいのソファへ腰を下ろし、ゆっくりロシアンティーを飲みはじめた。
この冬の間に、また全体的に身体が大きくなってきた気がする。
少し前まで子犬のようにちんまりとしていた筈なのに、夏のあたりから手足がにょきにょきと伸び続けて、母と姉の背を追い越し自分に迫る勢いだ。
自分でも突然成長し始めた身体を扱いかねているらしく、時々不思議そうに手の平を見つめている時がある。
そもそもその身体に乗っかっている顔がまだ子供の面影を濃く残したままなので、そのアンバランスさがおかしく、正直とまどうこともある。
たとえば、こんな気遣いも。
まだ少し湯気の立ち上る液体を一気に煽ると、全身にさーっと甘酸っぱさと温もりが広がった気がした。
「勝己」
ソファの奥に身体を伸ばして横になり、シートの空いている場所を叩いて呼ぶ。
飲みかけのマグカップをテーブルに置き、彼は立ち上がりゆっくり迂回してそばに来た。
遠慮がちに端に座るのを、腕を強引に引いて背後から抱き込んだ。
「憲・・・」
少しかすれ気味になってきた声が寂しくて、まだ幼さの残る首筋に鼻先を付けてすんと匂いをかいだ。
とくとくとく、と、鼓動を両手の平に感じる。
ロシアンティーの甘い香りと、ひなたに干した布団のような匂い。
小さな、小さな小鳥を手の平に包んでいるような頼りなさと、なんともいえない甘酸っぱさがない交ぜになって、どうしていいか解らなくなる。
「このまま、ちょっと寝る」
ぎゅっと強く抱え込んでぶっきらぼうに言うと、小さな声が答える。
「うん」
勝己の背中からこわばりがじわりと溶けた。
「あったかいな、お前」
「そう?」
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