学術を取るか芸術を取るか

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 時間は10時20分。午前の授業が開始される時間の様だ。半眼で見られては肩を竦め、自身の仕事に向き直る。 「ワタシ、アナタのそう言うトコ苦手ネ」  李はデスク上の台本やカセットテープ、デッキ等をかごに入れて持つと、空いている片手を軽くひらりと揺らして隣の席のトワイライトに「行ってくるワ」と告げた。トワイライトも馴れているのか「はいはい」と軽くあしらうだけだった。  そうして、片言吸血鬼の舞台演劇教師――李(リー) 雪花(シュエファ)は、にこにこしながら編み上げブーツを鳴らし、職員室を後にしていった。  職員室に残されたトワイライトは、デスクに向き合いテストの答案用紙と向き合った。その、答案用紙には質問の意図がまるで汲み取れていない……否、質問文が理解出来ていない、読めていないように見える回答が並んでいた。  全て落書き。  落書きの、何れもが教科書の楽譜の一部だったり、資料画の有名な作曲家の似顔絵だったりと様々で、名前を書く一番上の欄には、ご丁寧に教科担当のトワイライトの似顔絵迄描いてある始末。  普通なら赤点だろう。  然し、トワイライトはその答案用紙に花丸を描き、このテストの答案者にも判るようにと、何かを描いていた。  答案用紙の裏側……。  そこには、気怠げな女が、長い三つ編みの着物少女の頭を撫で褒めている絵が描かれていた。
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