鴉色の暗殺者(メイド)

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「今日も、掃除日和かしら」  パニエをたっぷりと使用し、膨らませた黒いスカートをふわふわと揺らしながら、空を見上げる。自分が王宮に雇われ早二年。王宮内の人々とは大分打ち解けていた。  彼女は、時喰(ときはみ) むくろ。  身に纏う物はメイド服ではなく、一般的にゴシックロリータと呼ばれる服装だった。其れで良いのか、王宮メイド……そう言いたい者も居そうだが、常識を知らない彼女は判らない。  そんな、紺色の髪の彼女はお気に入りの鴉色のゴシックロリータの上に、メイドに支給される清潔な白いエプロンを、はたきや箒を手に王宮内を回っていた。  王宮に雇われる身であり、住み込ませて貰ってはいるが、其の王宮の主である王に忠誠心など無い。  その理由は単純だった。  一つ、両親を殺した真犯人は、こんな歪な国を造り上げた王家であると思っているから。  一つ、自分が好き好んで遣っていることの場を貸して貰っているに過ぎないから。  然し、彼女とて非道ではない。そんな王を心配はしている。最近よく寝てないことや、仕事に追われていることも知っている。だから、何が出来ると言う訳ではないがメイドとして遣れる限りは遣らないと、存在意義が無くなってしまう。主が働いているにも拘わらず休暇を貰うなど以ての外だと思っている、お堅い思考。  紅茶を淹れて運んだり寝ないと駄目だとダメ出ししたり、一介のメイドにしては些か過ぎる行動だが、それでも王宮で働き続けれるのは……。  なんて考えているが、はっきり言って仕事さえあれば何でもやるのが自分と言う人間なのだと自負している。  正しく言えば、だからこそ自分という人間は暗殺などに手を染めていたのだと……。  そして、それはこの仕事場で何れ役立つからだ……。密かに芽生えた復讐心の向かう先を知る者は彼女以外に居ない。
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