蒼色の絵描き

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「できた」  我ながら完璧である。この濃淡のある蒼い色を美しく使いこなせるのは、このボクが通うマリノス芸術学園では、恐らくボク一人だけだろうと自負している。  だから、キャンバスを前ににんまり笑ってしまう。  ボクは、絵を描くのが好きだ。特に好きな色は蒼い色だ。ボクのイメージカラーでもあるから。  ボクの絵を誉めてくれる人が居る。ボクの絵を認めてくれる人が居る。其れだけで、ボクは嬉しくなる。  ボクの通う、マリノス芸術学園とは、絵画、音楽、彫刻、舞台演劇などの様々な、芸術部門を扱う或る意味で、専門学校だ。  学術に劣るも、個性的な芸術に特筆したものが入る学園……ボクの中の認識ではそんな処。  このマリノス芸術学園が建つインウィーケーディアと言う国のカリア街には、もう一つ学園がある。その学校は、マリノス芸術学園の特化する芸術に反して、学術の学校だと聞いた。  ボクには関係がないのだけれど。  まぁ、インウィーケーディアのカリア街はそういった学問の街として栄えている。  様々な人種が暮らし、共に学び屋にて学びを請う。  そんな街に越してきたばかりのボクは、碌に家なんて持っていない、マリノス芸術学生。とある人の伝手で、アトリエは在るんだけど。  家なんて、寝る場所さえあればいいと言う考えなんだよね。  因みに、ボクの自宅はアトリエ工房ではなく、街路樹の巣。素は鳥だし。  アトリエで暮らせばいい……何て言う人も居るけれど、作品は作品でボクたちが汚して善いようなモノじゃないと思うんだ。だから、一緒には暮らせない。人間たちの穢れが着いてしまうかもしれないから。  それ程に作品は表しようがないくらい、ボクにとっては大切なものなんだ。  毎日毎日、絵を描き続けると絵の具は減っていくし。創る為の材料も減っていく。  そうすると、どうしても買いに行かざるを得ない状況になるものだ。愚民から、何かを買うなんて、ボクは未だに慣れない。  ボクは誇り高き、獣人なのだから。  仕方無いから次の作品を作成する前に、筆を置いて出掛けるとしよう。あの通りにはボクの好物の葡萄も、絵の具の材料も何でもあるから。ボクはこのあたりじゃ珍しい着物の袖を纏めていた襷を外して、裾を整えた。  買い物に出るべくボクは、リュックを背負った。
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