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河川敷には屋台が多種多様に並んでいる。
まだ花火が上がる時間には程遠いのに、すでに河川敷は人で埋めつくされていた。
四人で端から端まで、ゆっくりと歩いて何を食べようか選んでいる。
その道中、亜美に伝えなければならない言葉を頭の中で反芻していた克也は、食べ物どころではなかった。
それは告白ではなく、隆大監督から割り当てれたセリフだった。
中々切り出せない克也に向かって隆が目配せをする。
意を決して亜美に近付く。
「なぁ、あいつら二人きりにしてあげへん?俺らおったら邪魔やろ?」
棒読みに近いそのセリフを聞いた彼女が笑う。
だが、克也の下手な芝居に笑ったのではなく、内緒の作戦に興味を惹かれたらしい。
「いいね、その作戦。なんだかドキドキしちゃうね」
そう言って笑う彼女にドキドキしたのは克也の方だ。
隆と美香が屋台に夢中になっている隙に、克也と亜美は二人で違う道に逸れる。
これで、この人混みの中を二組が再会するのは不可能となった。
「うまくいったね」
「そやな」
うまくいくのは当然なのだが、二人で罪を共有したような気がして、克也は嬉しくなった。
「私たちもなにか食べようよ」
「じゃあ東京コロッケ食べよか」
「東京コロッケって何?」
「えっ? 亜美、東京から来たのに知らんの?」
「えー知らない、食べたいな。行こう」
人混みの中、ゆっくりと屋台に向かう。
「これが東京コロッケ?」
「ほんまに知らんねんな」
「美味しい。初めて食べたよ。東京ではこんなの売ってないもん」
「ほんまに?じゃあ東京コロッケちゃうやん」
「そうだね、大阪コロッケに名前変えてもらお」
「誰に言ったらええんやろ?」
「んー、府知事とか?」
「まぁまぁ大ごとやな、政治が絡んでくるとは思わんかったわ」
これがほんまのまつりごとやな、という言葉を東京コロッケと一緒に飲み込んだのは克也の好判断だったに違いない。
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