側に居たくても

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死に場所を選ぶため、などという大それた理由なんかじゃない。 これ以上、大切な明美が自分を責めて悲しんでほしくないことと、あたしの身体がこんなことになってしまった本当の理由、その真実を知ってしまったとき、優しい明美は絶対にショックを受けてしまうのが目に見えていたから。 「…………」 台所に立つ明美の背中へ無言の別れを告げ、開け放していた窓から外に飛び出したあたしは、ただひたすら遠くを目指して駆けだした。 なるべく人目につかない細道や軒下を選び、明美と初めて出会った公園も通り過ぎ、見知らぬ土地へと当てもなく移動をしていきながら、あたしはこの身に起きていた異常の理由について思いを巡らせる。 あたしは明美と出会うまで、ずっと野良として生きてきた。 普段は自分で食べ物を探し、時折親切で近づいてくる人間から食べ物を貰うこともあった。 そうして、一年前。あたしは明美と出会い、飼い猫として迎え入れられ、野良時代には考えられなかった不自由のない生活を与えてもらった。
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