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ああいうのを俺たちオタクは敵意と恐怖をこめて、DQNと呼ぶ。語源は忘れたが、不良的行いをする人たちやそういう見た目をした人たちのことだ。彼らはいつの時代だって俺たちオタクの天敵だ。内向的で繊細な紳士が多いオタクにとって、声が大きく言動が粗野な彼らは脅威だった。その脅威が今、孤独なオタク戦士・俺の前に立ちはだかっている。くう、その向こうにはシュン姫が! 「……いや、無理無理無理」  小さい声でつぶやいて、踵を返しなおした。店から出て、通路のほうへ。ごめんシュン。代わってやりたい気持ちはもんのすごくあるんだ。富士山よりも高く、十和田湖よりも深いくらい。だけどね、だけど。あんなDQNたちの横を通り抜けるとか心の底からオタクな俺には無理だから! 「……何してるの?」  通路の真ん中にあるベンチで頭を抱えて座っていたら、無事お会計というミッションを終えたシュンが目の前に立っていた。ああ、後光がさして見える。 「い、いやあ、ああいうのちょっと無理でさ……」 「ああいうの?」  自分の分の買い物袋を受け取りながら、いまだ店の入り口付近でぎゃはぎゃはやっているDQN集団を指差す。それをなぞって今しがた出てきた店に視線を向けたシュンは、なぜか顔を引きつらせて凍り付く。  その反応は予想外だった。でも、そうか。おとなしいシュンもきっとDQNは苦手に違いない。怯えちゃって、可哀相なシュン。でも、今その横を普通に通り抜けて出てこなかったか?     
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