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blue
「愛は青い?」
「外れ。恋は水色」
彼女が聴いていたシャンソンの英題を訳してみたが、不正解らしい。たった3語なのに。
「なんで"blue"が水色になるの」
「"恋は青色"だと、寂しい感じがするからじゃない?」
「ああ、確かにそうかも。"真っ青"とか"青色吐息"とか、"青"には暗いイメージが付きまとうわね」
「英語の"blue"は"憂鬱な"って意味も含んでいるもの」
「そうなんだ。知らなかった」
少なくとも授業では習ってない。
彼女は昔から頭が良い。
「水色の方が可愛らしくて、尚且つ浮かれているような感じがするわ」
大きく開いた教室の窓から、爽やかなそよ風が吹いた。彼女のウェーブがかった栗色の髪がなびいた。
「今日みたいにうっすらと雲がかかった晴天の色かしら、水色って」
机に頬杖を付いて、少し伏し目がちに彼女は言った。
視線はグラウンドの中央辺りだろうか。
途端、ホイッスルの音が響き渡った。
「あ、終わったみたい」
彼女の目が輝いた。普段は見ないような顔。そんな表情の彼女は綺麗だと思った。
彼女は急いで荷物をリュックにまとめ始めた。
「ごめんね、藍。今度どっかでランチしよう」
「いいのよ、奢ってもらえれば」
「親友にたかるの!」
「冗談冗談」と言うと彼女は笑いながら手をひらひらさせて、教室から出ていった。
暫くすると、彼女が校舎から出ていくのが真上から見えた。日の光の下だと、彼女の髪の色は目立つ。
白いユニフォームに近付いて、立ち止まって少し話した後、2人で正門から出ていった。
最近部活が忙しいから一緒に帰れない、と悲しむ彼女の横顔を知っていたから。
今日は学校が午前で終わって、野球部の部活が短時間だと知っていたから。
だから気を利かせて、今日は2人で一緒に帰ってもらったのだ。
知っていて無視するのは親友じゃない。
彼女とは、小さい頃に泥だらけになって遊んだ仲だから。
彼よりも私の方が彼女と長くいる。
彼よりも私の方が彼女を知っている。
きっと彼よりも私の方が一緒に帰りたかった。
空には水色の空が広がっている。
いや、水色なんて浮かれた色じゃない。
それは彼女達の空であって――
私の中の空はあまりにも深い青で、こんなにも狭い。
物悲しくて、切なくて、心が冷たくて
恋は青色じゃないか。
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